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どうしよう。でも連れて帰りたい
〜脳梗塞後遺症からチームで転倒防止と在宅復帰を目指して〜


介護老人保健施設しおさい  3階病棟  後藤 直人
大塩 真奈美 ・花木 喜三好
長島 尚文 ・齋藤 崇志
日吉 貴美

 

【事例紹介】
 今回、脳梗塞発症時の状態から、回復期のリハビリを受けて状態の回復を目の当たりにし、「家で見てあげたい」との思いを内に秘めながらも在宅介護への不安から、当施設へ入所し、特別養護老人ホームへの入所を希望されていたご家族が、転倒事故という問題点を当施設と検討・改善していく上で、K氏とその家族、そして施設内各部門が一つのチームとなり、事故防止と在宅復帰を目指した症例を報告します。

【結果と考察】
 入所当所は、K氏の事故の多さから、介護的に余裕がなく、施設各部門においてK氏とご家族の秘めた思いを汲み取ることができなかったが、一つの大きな問題点である転倒事故の防止をK氏とご家族そして看護・介護部門、リハビリ部門、相談部門、その他部門が一つのチームとして検討していく上で、K氏の秘めた思いを理解でき、そのK氏を思うご家族の「施設においても自分らしくあって欲しい」「家に帰してあげたい」という思いが感じられるようになり、介護老人保健施設としての役割や介護に従事するものとしての役割を改めて、思い直し、各部門の専門性との共有が重要であることを感じました。

 

 

 

【はじめに】
 M町は人口約9000人の過疎化の著しい町であります。大きな産業がない為高校を卒業すると大半の生徒は都市部に就職をして町を出てしまう。そのため、家に残るのは老夫婦のみとなり、どちらかが病気になってしまうと容易に介護困難な状況に陥りやすくなります。高齢者世帯であり介護に協力してくれる家族もいないという現状です。そのため、病気の回復期を病院で過ごし、その後の在宅介護への不安から介護老人保健施設である当施設を利用され、その後も特別養護老人ホームへの入所を半ばあきらめ気味に希望されているケースが決して少なくありません。在宅に戻れるのは、障害を克服しADL全般を自力でこなし、介護の必要のない状態にならないと難しいのであります。
しかしそれは、高齢者にとってはかなりの難題であり、不可能なケースが多くあります。

 

今回、脳梗塞発症時の状態から、回復期のリハビリを受けて状態の回復を目の当たりにし、「家で見てあげたい」との思いを内に秘めながらも在宅介護への不安から、当施設へ入所し、特別養護老人ホームへの入所を希望されていたご家族が、転倒事故という問題点を当施設と検討・改善していく上で、K氏とそのご家族、そして施設内各部門が一つのチームとなり、事故防止と在宅復帰を目指した症例を報告します。

 

【ケース紹介】
入所者氏名 K氏 75歳 男性
疾患名 脳梗塞
障害名 右片麻痺、失語症、嚥下障害
家 族 妻 72歳
    長男平成14年に死亡。長男の嫁と 
    子供二人と同居。
経 過 平成17年6月3日 脳梗塞発症しJ 
    病院に入院
    平成17年6月23日 リハビリ目的で 
    Nリハビリテーションセンターに入院
    平成17年11月22日 当施設入所と
    なる

 

(1) 入所当所のご家族の思いとK氏の状況K氏のキーパーソンは妻であり、その子供達は別居という環境であります。入所時の妻の思いは、「家に帰したい」という希望は持ってはいたが、様々な障害を抱えた夫を在宅で介護することに不安が強く、今後は特別養護老人ホームへの入所を待つとのことでした。K氏におきましては、脳梗塞の後遺症から失語があり、入所時の段階では、K氏の思いを読み取ることができず、入所当所から日々転倒を繰り返す状況でした。看護・介護スタッフとしては、K氏の思いやご家族の思いを汲み取る以前に転倒事故によるケガなどの身体的な安全の確保に追われてしまう状況になってしまいました。リハビリを望みながらも、K氏の精神状況からまったく進めることができずにもいた。

 

(2) 事故防止に対する看護・介護部門の取り組み

 

(1) 施設スタッフへの信頼関係が築かれていないことK氏は以前のリハビリ病院では、起居移乗動作と車椅子自走などの離床訓練を中心に行い、一定レベルまでの改善はあったが、起居移乗動作は軽介助レベルで車椅子自走は見守りと介助を必要なレベルでしたが、様々な介護の場面でK氏より「え〜や」と簡単な発語があったり、手振り身振りでの拒否行動が見られ、その上、自力での移乗行動があり、結果的に転倒事故が頻繁に起こってしまいました。

 

(取り組み)
基本的なコミュニケーション技術をすべて使い、非言語的な手振り身振りや表情、行動からK氏の内面を読み取り、心に秘めた思いをとらえていくようにケアプランを作成しました。それと、妻の愛情が強くあり、入所時からほぼ毎日面会に来られ、施設での時間を過ごしていたので、看護・介護スタッフを頼る状況でないのではという点から、妻と看護・介護・相談部門で話し合い、一時的に妻の面会を減らすことで、K氏との接点の場を増やすように協力することにした。少しづつコミュニケーションもとれてきて、お茶が嫌いであることや表情も以前と比べて変化がみられ、様々な介護場面での拒否も少しづつ改善していき、入所当所、ほとんどトイレに行くことがなかったのにスタッフの声かけで自分でトイレ行くようになり、最終的に頑固として拒否していた口腔ケア介助も行うことができるようになった。最終的には、K氏の「家に帰りたい」と想う気持ちで、自分で起き上がることがあることも分かった。事故をなくす即効的な対応ではなかったが、今後のすべてにつながる取り組みであったと思います。

 

(2) K氏の離床、臥床を中心とした行動の把握をすること

 

パターン1
離床は介助で行うことができたが、臥床時に自分で戻ってしまいベッドへ自力移乗して失敗し、転倒してしまう。
もともと臥床傾向が強く、日中の活動性低下が心配されるK氏なので、目的に応じて定期的な離床を拒否されるのをなだめながら行っていた。しばらくは、起きているが飽きてしまうのか、座っているのが辛いのか、いつの間にか自分で戻ってしまうことを繰り返し行い、自力移乗に失敗し、転倒してしまうことが多かった。

 

(取り組み)
まず、コールの指導を行うが、K氏の理解がなく、一度も使用することがありませんでした。次に、見守りの強化および自分で移動し始めたら介助することにしましたが、離床時間が極端に短かったりとばらつきがあるため、スタッフが対応しきれず、気づかないことが多く、転倒事故が起きてしまったが、ある程度は事故を回避することができた。

 

パターン2
臥床時に自分で起き上がり、車椅子へ移乗して失敗し、転倒してしまう。
基本的には、臥床傾向が強いK氏なのだが、時々自分で離床の意思を持ち、行動してしまうケースが出てきた。

 

(取り組み)
まず、離床の目的を排泄に着目して、トイレ誘導を行ってみたが、尿意はほとんどなく、便意もまだらで効果的ではなかった。その他の目的も見出せず、対応困難な状況に陥ってしまった。結果、11月の約1週間では3件、12月にはパターン1の対策で減少傾向だったが困難事例のパターン2が改善できず6件の転倒事故が発生し、中には外傷を伴う事故へ発展してしまった。看護・介護部門内での解決は難しく、リハビリ部門そして、相談部門を通してご家族への協力を得るように、一つのチームとしての結束を高め、チームアプローチを始めることになった。

 

(3) チームアプローチで事故をなくす

 

まず、第1回サービス担当者会議を相談部門で調整し、ご家族と看護・介護部門、リハビリ部門、相談部門で開催し、転倒事故防止を共有の問題として検討することにした。
(1)K氏とスタッフ間の信頼関係ができ始めてきたこともあり、ご家族の面会を増やして、K氏の精神安定と見守り時間を増やすことを協力して行うこととした
(2)リハビリを出来るところから始め、移乗動作の安定を少しでも図るように、協力する体制を作ることにした
(3)その他部門とも情報を共有し、見守りと看護・介護部門への報告を協力するようにした
(1)〜(3)の対応で進めたが、それでもパターン2の事故には対応できず、転倒事故が発生してしまった。また、(2)のリハビリもうまく進まなかった。
それに伴い、第2回サービス担当者会議を開催し、現在ある事故による身体の危険を防ぐため、低床ベッドを導入することになった。しかし、ご家族はK氏の現在ある移乗レベルを低下させるのではと心配しているようでした。継続している間、常にご家族は低床ベッドでの生活を心配されていましたので、看護・介護部門、相談部門、リハ部門から随時説明を行い、結果としては、低床ベッドの導入は、転倒防止としてはパターン2の発生をなくし、通常の介護ベッドへ戻すまでの45日間は事故発生がパターン1での1件と激減することができた。

 

(4) 転倒防止から在宅復帰へのチーム
アプローチ

 

ご家族の思いが、チームアプローチで転倒防止を検討する中で、第3回サービス担当者会議開催の時に、事故が起きてもいいから通常のベッドに戻して欲しい、そして、家で看ると心情的な変化が見られるようになりました。決心された転機は、同室のショートステイ利用者を見て、「よくこの状態で家で看ているな〜、自分にもできるかもしれないな〜」と考えたそうです。その家族の思いから、そしてなにより、K氏の時々見られる「家に帰りたい」と思われる行動から、事故のリスクがあっても、話し合い極力転倒防止に努めながら、通常ベッドに戻すように検討することにしました。そして、在宅復帰が実現するように。

 

(1)対応困難時な時間帯および発生の危険が予想される時間帯である早朝の6時〜7時はベッド柵を4点にし、限定的に実施することにする
(2)ご家族の協力を今まで以上に強化し、日中は見守りをしてもらう
(3)ご家族の非面会時は、臥床と離床対応をスタッフ間で協力し、徹底する
(4)リハビリ部門の協力を得て、再度、移乗レベルの確認と移乗しやすい環境整備を行う→L字バーの設置と移乗指導の事故防止と在宅復帰のために住宅改修の助言
(5)ご家族への看護介護指導
(6) 相談部門の協力を得て、居宅サービスの 紹介と在宅ケアマネとの調整の6点を計画・実施して、ご家族と施設各部門が協力し、K氏の事故を防止しながら、在宅復帰支援という目標を立てた。
結果、通常介護ベッドへの変更後、3/1から現在までに3件の転倒事故が発生していますが、K氏の離床時間が長くなり、リズム的にも変化が生まれ、早朝も5/13には、4点柵の使用時間である6時〜7時に必要がなくなり、解除できるまでに至り、住宅改修も行われ、5/13に在宅復帰を実現しております。

 

(5) 結果・考察

 

入所当所は、K氏の事故の多さから、介護的に余裕がなく、施設各部門においてK氏とご家族の秘めた思いを汲み取ることができなかったが、一つの大きな問題点である転倒事故の防止をK氏とご家族そして看護・介護部門、リハビリ部門、相談部門、その他部門が一つのチームとして検討していく上で、K氏の秘めた思いを理解でき、そのK氏を思うご家族の「施設においても自分らしくあって欲しい」「家に帰してあげたい」という思いが感じられるようになり、介護老人保健施設としての役割や介護に従事するものとしての役割を改めて、思い直し、各部門の専門性とその専門性の共有が重要であることを感じました。
今後は、利用者様本人とそのご家族の内に秘めた思いを各部門が共有し合い、その思いの実現ができるように、すべてがチームとなっていくようにしていきたいと思います。

 


 
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